• 一頭一頭、思いを込めて
    伝統あるわら駒を
    桐原の地で
    作り続けています。

      • 桐原牧(わら駒)保存会
        会長

        宮入 久

        Hisashi Miyairi

桐原に移り住んで知った
わら駒に魅せられて。

 「桐原のわら駒」を知ったのは、40代の頃です。縁あって桐原に引っ越してきた際に、桐原牧神社の春季例大祭で奉納されているわら駒を見て、これは素晴らしい伝統行事だと感激したんです。
 そもそも桐原という地は、奈良時代から名馬の産地として多くの馬が飼育されていたそうです。桐原牧神社が祀られたのもその頃(1000年~1500年前)ではないか、とのこと。村に残された文献(1802年・享和2年)には、氏子たちが家ごとにわら駒を作って供物を背負わせ、神前に奉納していた様子が記されています。つまり、今から217年くらい前には、すでに桐原のわら駒があった、ということです。時代の移り変わりによってわら駒は小さくなり、供物も入れなくなりましたが、五穀豊穣や子孫繁栄を願う気持ちは今も同じ。歴史の中で脈々と受け継がれてきたわら駒の伝統が、今日まで続いているということは本当にすごいことですし、それだけ桐原の住民にとって、わら駒は大切なものなのだと思います。
 実際にわら駒作りをやってみようと思ったのは、定年退職をした後です。当時は、わら駒を作れる人の家に訪ねて行っては教えを乞い、見よう見まねで作ってみて、わからなくなったらまたお邪魔して、というようなことを繰り返しながら覚えていきました。何度も失敗しながら試行錯誤を重ね、ようやく先輩方から認められて神社に奉納できるようになるまでに5年かかりましたね。

先人が継承してきたものを
次代へとつなげていきたい。

 ベテランでも一頭作るのに半日はかかる「わら駒」。各パーツ作りをはじめ細かな作業が多いですが、作るのは楽しいですね。「今回はここがうまくいった」とか「ここのバランスが良くなかったな」など、一頭一頭違います。わら駒を作りはじめて15年以上経ちますが、毎年50頭以上作ってもなかなか納得のいくものは仕上がりません。それでも毎年くじ引きでわら駒を当てた人の笑顔を見るたびに、作ってよかったなと思いますし、喜んでくださる人の顔を思い浮かべながら、心を込めて作っています。
 また、自分の腕を磨くだけでなく、この伝統ある「桐原のわら駒」の技術をしっかり後世に伝えていくために、「桐原牧(わら駒)保存会」のメンバー全員で頑張っています。平成14年には、長野市文化財保護条例による「選定保存技術」にわら駒作りの技術が選定され、制作者は「技術保持者」として認定されることになりました。現在、保存会の会員は25名ですが、そのうち技術保持者は10名です。今後は、わら駒作りの層を厚くするとともに、「技術保持者」の人数を増やしていきたいと考えています。
 その活動のひとつとして、地域の子どもたちや住民に向けて「わら駒作りを教える講習会」を毎年開催しています。桐原牧神社の境内には、旧公民館を活用した「桐原わら駒会館」があり、ここを拠点にして子どもたちに「わら駒作り」を体験してもらっています。子どもたちは毎年みんな大喜びでわら駒を作っていますよ。今、桐原の町にはもう水田がない状況で、わら駒のわらも協力してくださる他の地域の農家さんにお願いしています。だから桐原の子どもたちにとって、わらは馴染みがないものになってしまいました。だからこそ、小さい頃からわらと親しみ、自分でも「わら駒」が作れる、ということを体感してほしいと思っています。
 今年ももうすぐ、桐原の春季例大祭の時期がやってきます。保存会で作るわら駒が神社に奉納され、くじ引きで授けられます。今年は巨大わら駒も登場しますので、ぜひ3月8日は桐原牧神社の春季例大祭にお越しください。

(2019年3月号掲載)