• この地に暮らす人とともに
    自然の保護と利用を
    良い方向へ循環させることで
    自然との共存を目指していく。

      • 国立公園管理官

        宮下 央章

        Nakaaki Miyashita


      • 環境省 上信越高原国立公園管理事務所 志賀高原管理官事務所
      • 下高井郡山ノ内町大字平穏7148 志賀高原蓮池
      • 0269-34-2104
      • https://www.env.go.jp/park/joshinetsu/

日本の豊かな自然を
守る仕事がしたいと環境省へ。

 緑豊かな福井で生まれ育ったからなのか、大学で生物資源を学んだ後、環境省へ入省したのは、私にとっては必然でした。大阪の地方事務所で基礎を学び、自然保護官として現場に出たのは5年前です。初めての赴任先は、石川県の白山国立公園でした。ここは白山を中心とした山岳中心の国立公園で、登山道や避難小屋の補修・管理のほか、地元の方たちと協力して外来植物の撤去などに取り組みました。初めてのことばかりでしたが、非常に良い経験を積むことができたと思っています。
 上信越高原国立公園の志賀高原管理官事務所に着任したのは2年前です。同じ国立公園でも、その在り方が白山国立公園とは全く違うことにとにかく驚きましたね。こんなにも人の暮らしと自然が密接に関係している国立公園はないのではないかと思います。自分がやるべき「自然を守る」という仕事は、単に自然環境を保護するということだけではなく、この地に根づいた文化を理解し、地域に暮らす人たちの暮らしに寄り添いながら、信頼関係を築くことで初めて成し得るものなのだ、ということを実感しました。それからは、まず地域の方たちの声をしっかりと聞いた上で、環境省としての考えをお伝えするようにしています。皆さん、志賀高原が良くなるためなら前向きに考えてくださる方たちばかりなので、非常に良い関係を築けているのではないかと思っています。

新たに変わりゆく志賀高原の
これからを見つめて。

 現在、志賀高原では地域合意のもと、環境省の補助金を活用した廃屋の撤去、多言語看板の整備等が進められています。また、環境省では蓮池地区をビューポイントと位置づけ、地域の合意・協力のもと廃ホテル跡地の園地整備を行い、小さなイベント等が開ける芝生の広場や、池を周回できる歩道を整備しました。山の駅と一体となった利用が見込まれ、志賀高原の玄関口としてふさわしい場所に生まれ変わったと思います。最近は小さなお子さんを連れたご家族や、写真愛好家の方々が多く訪れています。志賀高原はアクセスもよく、車からニッコウキスゲなどの高山植物を楽しむこともできるので、もっと多くの人に志賀高原を楽しんでもらえればと思っています。
 さらに自然を守るための活動として、特定外来生物の除去にも取り組みました。サンバレー周辺で北アメリカ原産のオオキンケイギクという特定外来生物が確認されたため、地元のガイド組合の皆さんのご協力で除去作業を実施しました。また志賀高原には、希少猛禽類が利用している環境があります。多くの猛禽類は生態系の上位にいる種であり、言い換えれば志賀高原は、そういった希少猛禽類が利用できるだけの基盤がしっかりしている地域だといえます。土壌の中の微生物から始まる、複雑に絡み合った生態系のピラミッドがきちんと形成されている。これはこの地に暮らす人たちが、自らの力で成し得たことです。それぞれが自然と共に生きようと地道に活動してきたからこそ、志賀高原は人と自然が共存できる稀有な場所になったのだと思います。
 この歴史を踏まえた上で、環境省では現在、志賀高原の管理運営計画の見直しを行っています。地元の方たちのご意見を聞きながら、直接の担当者として日本を代表する志賀高原の「これから」に携わらせていただいていることに誇りとやりがいを感じています。10年後、20年後の志賀高原が、自然と人が美しく共存し合い、良い循環を巡らせる姿を思い描きながら、今、この瞬間に自分ができることをすべてやっていきたいと思います。

(2020年12月号掲載)