• 心豊かな地
    戸隠の素晴らしさを
    宿屋の営みを通して
    伝え続けていきたい。

曾祖父の思いを継いで
白金家を復元。

 白金家は、昭和11年に曾祖父が建てた宿屋です。それまで宿坊以外に宿泊施設がなかった戸隠に初めて宿屋を開業し、第二次世界大戦や高度経済成長といった時代の変遷とともに、2代目、3代目とその姿を変えながら受け継がれてきました。
 父の仕事の関係で東京生まれの私にとって、戸隠にある宿屋はおばあちゃんの家。学校が休みの時にはいつも遊びにきていましたね。常に大勢のお客さんがいて可愛がってもらい、とても楽しかったことを覚えています。小学校3年生の時に戸隠に戻ってからは、白金家が自分の家になりました。
 宿屋は祖母と母が中心となって切り盛りしていたのですが、長野冬季オリンピックに合わせて新幹線が開通してから、戸隠の宿泊客は徐々に減少していったように思います。祖母や母が年を重ねるにつれ、旅の在り方やニーズの変化に対応することも難しくなり、建物が老朽化したこともあって、白金家は一度休業しようということになりました。潮目が変わったのは平成29年。白金家を含む戸隠の伝統的建造物群保存地区が、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定されたんです。当家も築80年以上ということで保存対象の建物に指定されたため、これを機に復元という形で補助金を申請し、白金家を元の姿に戻そうと動き始めました。

日本の伝統家屋で
やすらぎのひとときを。

 さまざまな手続きを経て始まった白金家の工事ですが、これがとにかく大変でした。保存地区の建物を復元するということは、釘ひとつ打つにしても長野市を通して文化庁にお伺いをたてないといけないんです。結局、復元工事に2年の月日を費やすことになりましたが、隠れていた栗やケヤキの柱や梁が現れるたびに、曾祖父がどんな思いでこの建物を建てたのか、その心に触れているようで嬉しかったですね。愛着がどんどん湧いてきて、この宿を私の代で途切れさせてはいけないという思いが、自分の中で育っていくのを感じました。そうして復元が終わった白金家を見上げたとき、「この歴史ある建物を多くの人に見ていただきたい、曾祖父の思いを受け継ぎたい」と素直に思えたことが最後の決め手となり、4代目女将として宿屋を始めることにしました。
 多くの方にお力添えをいただいて、平成30年の年末に再出発した白金家。曾祖父の時代の屋号は「白金屋」だったのですが、家に帰ってきたときのような、温かくやすらぎのある宿にしたいという私なりの思いもそこに足して、「白金家」という名で開業させてもらいました。
 「白金家」は復元ではありますが、断熱、遮音、耐震を備えた宿屋に生まれ変わっています。お部屋は全部で3室。総宿泊人数8名の小さな宿ですので、ご両親やお子様と一緒に3世代でご宿泊されたいといった際には、ご家族での全館貸し切りにも対応しています。お料理も戸隠の地のものを中心に手作りの品をご用意。リピーターの方には同じ料理を出さないよう心掛けています。今後はさらに安全・安心な宿として、さまざまなプランを企画し、ご要望にお応えしていきたいと考えています。
 この春、戸隠では4月25日から5月25日までの1カ月間、戸隠神社式年大祭が開催されます。式年大祭は、古来より丑年と未年に行われてきた伝統ある祭事。長野県指定無形民俗文化財である太々神楽は連日献奏されますので、ぜひ長野を中心とした北信地域の皆さまにも、パワースポット戸隠を満喫していただきたいですね。

(2021年4月号掲載)