本のような和菓子を。
店主の思いを受けて悩み抜き、
完成した「きんどら」。

 第二弾となる「どら・セッション」の相手は、地域に根ざして商いを営んでいる「書肆 朝陽館」の店主、荻原さん。本屋ならではの視点を交えながら、和菓子の歴史に紐づいたアプローチを思考するなど、多面的な角度から楽しくセッションすることができました。
 そんな中で、菓子の表現として浮かび上がってきたのが「本の形を模した和菓子」です。自分としても、本屋さんとのコラボで本の形をした和菓子は面白いなと感じたのですが、実現するとなると、これは大変だなと。どらやきの製法で考えると、本の形に仕上げるのは不可能に近い。どうやっても折れないんですね。焼き上げた皮が、本の「背」の部分で割れてしまいます。店に戻って試行錯誤してみましたが、やはりどらやきの皮で背は作れず、きちんと背を作って本の形に仕上げることができたのは、たむらの代表的な菓子でもある「スフレロール」の生地だけでした。しかもサイズが大きくなってしまい、ロールケーキ同様切り分けて食べるサイズでしか作れなくて。ふりだしに戻って、どらやきの生地を使って本の形に仕上げる方法を模索し続けました。
本 = 四角で思いついた
発想の転換
 実は今回のコラボにあたり、荻原さんには、「完成したら朝陽館のオリジナル和菓子として、店のカフェでも提供していきたい」という言葉をいただいていました。さらに荻原さんは無類の甘味好きで、特に餡には強いこだわりのある方です。その餡への愛情に応えられる和菓子で、お店で出せるサイズのもの、というのも大きな課題でした。夢にまで出てくるほど悩み続けて、ある日思いついたのは、「本は四角いんだから、四角い餡に皮を付ければ本にみえるんじゃないか」という発想の転換でした。餡を皮で包むのではなく、四角い餡に皮を付けるのであれば、たむらには「きんつば」の技法があります。きんつばをベースに、周りに焼き付ける皮を、どらやきの生地にすることができれば、本に見えるかもしれない。そこから一気に試作を進めていきました。
 決め手となる餡は、丹波の大納言を用いて寒天と水、砂糖とともにじっくりと炊きあげます。できるだけ小豆をつぶさないよう優しく丁寧に。手の感触をたよりに職人の技で仕上げた珠玉の餡は、小豆本来の美味しさを感じていただけます。炊いた餡に寒天を加えて固めたものとは、味わいや舌触り、一体感が全く違うはずです。
 餡に焼き付ける生地は2種類を用意。どらやきの生地に抹茶を加え、通常よりも若干ゆるくしたものを本の表紙として用い、ページの部分は本来のきんつばの生地にしました。焼く際に使用する「太白ごま油」は、生地に加えた抹茶の風味や餡の味わいを邪魔することなく、ふわりとした香りを楽しむことができます。熟練の職人が一つひとつ手作業で各面を焼くことで、世界にひとつしかない、本の形の和菓子「きんどら」が完成しました。
 より本らしくみせるために、背表紙に「田むら」の焼き印を押し、表紙は季節に合わせて「風鈴」の焼き印を配してみました。現在、「朝陽館」の焼き印を手配中ですので、8月の販売時にはコラボ和菓子「きんどら」をご提供できると思います。読書のお供として、楽しんでいただければと思います





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(2022年9月号掲載)