• 手仕事ならではの良さを
    善光寺のお膝元から
    地域の皆さんに
    伝えていきたいと思います。

継がなければ後悔すると
染物屋の3代目に。

 善光寺のお膝元、岩石町の染物屋の息子として生まれ育ちました。実は大学進学を機に長野を離れ、ずっと東京で暮らしていたんです。でも親が年を取って家業をどうするか考え始めた時に、このまま継がずにいたら、たぶん後悔するなと。親父の仕事道具がどんな風に使われていたのかも知らずに、いつかそれを処分するんだろうと思うと、なんだか寂しく、申し訳ない気持ちでいっぱいになって、家を継ぐ覚悟を決めました。
 6年前に東京から戻り、1年間は家族とも離れて実家に住み込み、親父に弟子入りして一から技術を学びました。うちは祖父が昔、長野市内にあった「小玉屋」という染物屋に丁稚奉公に行き、暖簾分けして始めた店なんです。当時は小玉屋が何軒もあったそうですが、今はうちだけになってしまいましたね。
 現在は、本染めと顔料染めの2つの染め方を用途によって使い分け、すべて手仕事で仕上げています。最初はどの工程も難しくて失敗も多かったですよ。うちは裁断までやるので、せっかく綺麗に染まったのに、最後の最後で切っちゃいけないところを切っちゃって、頭が真っ白になった経験もあります。そんな失敗も糧にしながら少しずつ知識と技術を高め、今では自分なりに工夫することもできるようになりました。

時代に逆行しているからこそ
残していきたい職人の技。

 本染めと顔料染めは、それぞれに製法や仕上がりが異なり、小玉屋では、物によって染め方を分けています。お店の暖簾などは雨風を受けることもあるため、色あせしにくく強い顔料染めで仕上げます。逆に手ぬぐいや法被などは、布の風合いが活きる本染めで染めています。どちらにも、その良さや特徴があり、染めに適した気温や湿度も全く違うんです。
 顔料染めは、湿度が高く気温が低い曇りや雨の日が適していて、時間をかけてじっくりと乾かしていくほうがムラになりません。逆に本染めは湿度が低く、からりと晴れた日のほうが適していて、乾きが悪いと白地の部分に、にじみが出てしまったりするんです。それぞれの特性を知るごとに、染め屋には晴れの日も雨の日も必要で、昔から自然とともに生きてきたんだなあと、四季折々の移ろいに感謝するようになりました。
 また、染めの際に重要なのが「色」です。本染め、顔料染めのどちらも、単色染めが基本。お客様の思う「色」にどれだけ近づけられるかが、職人の技です。染料を少しずつ混ぜ合わせ、何度も試して「色」を作っていきます。最初はなかなかうまくいかずに思考錯誤の連続でした。濃くなってしまうと元には戻せません。また濡れた状態だと判断がつかないので、試してはドライヤーで乾かし、また試しての繰り返し。そうして出来上がった「色」で染め上げた商品を、お客様が気に入ってくださったときは至上の喜びです。「小玉屋さんの染めた布は温かみがあるね」と言っていただくこともあり、職人になってよかったと思える瞬間です。
 機械化が進む現代。布を染める技術も発達して、手染めの技は失われつつあります。そんな中、職人が手仕事で仕上げた染め物の良さを知っていただきたいと、オリジナルの「小玉屋てぬぐい」を作り始めました。若い方にも知っていただけるよう、SNSから情報を発信したり、マルシェ等にも出店しています。岩石町の店でも販売しておりますので、興味のある方はぜひ遊びにきてください。裏も表も美しく染まった本染めのてぬぐいの風合いを、楽しんでいただけたらと思います。

(2022年11月号掲載)