• 四季折々に美しい飯山の地で
    生きていく日々の中、
    受け取った「想い」を込めて
    人形を作り続けていきたい。

      • 高橋まゆみ人形館

        人形作家 高橋 まゆみ

        Mayumi Takahashi

      • 高橋まゆみ人形館
      • 住所/飯山市大字飯山2941-1
      • https://www.ningyoukan.net/

人形との出会いが
私の人生を支えてくれた。

 長野市の郊外で生まれ、田畑に囲まれた豊かな自然の中で、伸び伸びと育ちました。友達と学校帰りに道草をして、メダカを捕まえたり、缶蹴りをしたり、どれも楽しかった思い出です。実家の周辺は、今では住宅やビルが建ち並び、すっかり様変わりしてしまいました。
 結婚して子どもができ、自分を取り巻く環境が大きく変わった頃、ふらりと入った手芸屋さんで目にしたのが、人形作りの教室。これが私と人形との出会いであり、「こんな世界があるんだ」と驚いたことを覚えています。その後は通信教育で基礎を学びながら、自分がいいと思う作家さんの作品を参考にしたり、自分なりの作り方を模索するようになりました。当時は小人や河童など、架空の物を作るのが楽しかったですね。仲間とグループ展を開催するなど、子育てをしながら人形作りを楽しんでいました。
 主人の実家である飯山に移住し、義両親と同居したのは30代になった頃でしょうか。飯山は自分が育った頃の自然がそのまま残っていて、素晴らしい場所だと思いましたね。とはいえ、子育てや仕事など、日々のストレスが溜まっていく中、人形作りから離れた時期もありました。でもある時、おばあちゃんの人形を、何かに取り付かれたように作ったんです。そうしたら、その人形が私のモヤモヤを全部吸い取って開放してくれた。「そうカリカリしなさんな」と諭してくれたんです。ここから、私の新たな人形作家としての人生が始まりました。

人形に込めた「想い」が
メッセージとして見る人の心に。

 ふと見まわしてみれば、周りには飯山の豊かな自然や田畑、子どものお守りをしながら農作業に精を出すお年寄りたちがいました。この日本の原風景ともいえる世界を人形に込めて残したい。いずれは見ることができなくなるものを伝えていく使命がある。今は、そんな思いで人形を作っています。
 例えば「お迎え」というタイトルの人形があるんですが、これは私の体験から作っています。ある雨の日に義父が「子どもたちが傘を持っていかなかった」といってソワソワしていて。私は、「自分で忘れていったんだから、濡れて帰ってくれば今度から持っていくようになるでしょ」って放っておいたんですね。そうしたらいつの間にか義父の姿が見えなくなっていて、どこに行ったんだろうと探したら、子どもたちの傘を抱えて学校までお迎えに行っていたんです。その後ろ姿を見た時に、子どもたちを愛おしく思ってくれている心や情の深さを感じて、涙が出そうになりました。日常の暮らしの中にある愛のある情景は、何気なく過ごしていると見過ごしてしまいがちですが、実は身近にたくさん溢れています。そこにある情、「想い」も合わせて、心を込めて人形を作っています。私の人形を見た人が、そのメッセージを受け取ってくれれば幸せですね。
 また、人形たちが着ている服は、実際に義両親や地域の人たちが農作業や日常で着ていた洗いざらしのものを使っています。人の暮らしとともにあった衣類や手ぬぐいなど、嘘のない風合いが人形に命を吹き込んでくれていると感じます。これからも地域の皆さんのご協力をいただきながら、心に響く世界を形にしていきたいと思います。
 「高橋まゆみ人形館」では4月から展示内容を入れ替え、飯山在中の和紙作家さんとのコラボ作品も展示する予定です。春の飯山はゆったりと流れる千曲川や菜の花、満開の桜など、幸せな風景がいっぱい。どうぞ美しい飯山と、そこに生きる人の「想い」を込めた人形に会いにきてください。

(2023年4月号掲載)