• 歯を磨くことは
    自分を大切にすること。
    笑顔で日々を過ごすために
    伝えたいことがあります。

      • 医療法人 彩優会 理事長
        訪問歯科医師

        伊東 材祐

        Saiyu Ito

      • https://saiyu-ai.com/

      • 書籍「おとなの歯磨き」発売中
        私が推奨するおとなの歯磨きの詳細が掲載されています。

訪問専門の歯科医師として
地域に根差して。

 諏訪大社のお膝元である諏訪市の生まれ。母や叔母が看護師だったこともあり、身近だった医療の道へ進むことを決めました。歯学部を卒業後は、大学病院附属の特殊研究機関で最先端の歯科医療を学ぶことに。とにかくハードな毎日でしたが、今の自分を支える知識や技術、診療に対する考え方は、この頃に身に付いたように思います。
 慌ただしい日々の中、ある時訪問歯科診療を経験する機会があって。一人ひとりとじっくり向き合いながら診ることができる訪問診療の在り方に、強く共感しました。自分の進む歯科医療の在り方はこれだと思い、平成24(2012)年に訪問専門の歯科医師として開業。以来、安曇野市を中心に、14年にわたり約7万回を超える訪問診療を行っています。
 訪問歯科診療はお年寄りが多いのですが、治療し、口腔ケアを継続していくことで、利用者さんがどんどん変わっていく姿に驚くことがあります。流動食しか食べられず寝たきりだった方が、入れ歯を調整して痛みをとり、同時に口腔内を清潔に保つよう指導したところ、食事をしっかり取れるようになり、目の輝きを取り戻しました。口腔ケアをしたことで、人としての喜びや尊厳まで、取り戻すことができたのです。
 口は、6種類の神経が脳とつながっています。自分の歯で咀嚼すること。舌で美味しいと感じること。それらすべてが脳への刺激となり、脳が活性化されます。自分の歯を守ることが、何十年後の自分に大きく影響するということを、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。

多くの人が間違っている
歯の磨き方。

 歯は、健康な日々を過ごすための「鍵」となる器官であり、 清潔に保つことがなにより重要です。しかし、口腔内に存在する虫歯菌や歯周病菌は時間の経過とともに増加し、特に歯周病菌は自覚症状なく進むことで、糖尿病や関節リウマチ、誤嚥性肺炎や脳梗塞、心筋梗塞、アルツハイマー型認知症などの原因になることも。また、うつ病や骨粗鬆症なども歯周病との関連が示唆されています。逆に言えば、プラークを除去して口腔ケアをしっかりと行うことで、これらのリスクを減らすことができるのです。
 では、正しい口腔ケアはどのようにすればよいのでしょうか。「私はしっかり磨いているから大丈夫」と思う方もいらっしゃると思いますが、これまで多くの診療を行ってきた経験上、きちんと歯を磨いているという人も、そのほとんどが正しいケアができていません。ぜひ、もう一度自分のやり方を見直していただければと思います。
 私が推奨する「おとなの歯磨き」は、7つの道具を使います。まずかための歯ブラシで横磨きと縦磨き。次にやわらかい歯ブラシを歯茎に対し45度の角度で当て、歯周ポケットを磨きます。磨きにくい歯は、ワンタフトブラシを使って1本ずつ磨いてください。歯を磨いたらフロスで歯の間のプラークを除去。隙間が広い部分には歯間ブラシを使います。最後にスポンジブラシで歯茎や舌などをやさしく磨いて終了です。また、歯磨きには天然塩をおすすめしています。そして、1ヵ月に1度は歯垢染色剤を使用して、口腔内にどれだけプラークが付着しているのかを、目で見て確認することも大切です。歯磨きが面倒なときは、「1秒だけ歯を磨く」や「ながら磨き」で乗り切りましょう。歯がいい人は、歯を大切にする気持ちが驚くほど強いのです。心身を大切にし、自分を愛し幸せな人生を送ってほしいと思います。

(2025年8月号掲載)