• 渋の源泉を守り
    感謝して湯を引くことで
    渋温泉を訪れる皆さまに
    温泉を楽しんでいただきたい。

      • 渋温泉 歴史の宿 金具屋
        主人 八代目 

        西山 平四郎

        Heishiro Nishiyama

      • 渋温泉
        歴史の宿 金具屋
      • 下高井郡山ノ内町平穏2202
      • 0269-33-3131
      • http://www.kanaguya.com

湯量豊富な
渋温泉を守って。

 北信濃の山々に積もった雪が、春の訪れとともに解け始める4月中旬。まだ日中でも寒さが厳しい中で行われるのが、源泉から渋の温泉街へ湯を引くパイプ、「引湯管」の掃除です。
 渋温泉には約50もの源泉がありますが、中でも最大湯量を誇るのが、温泉街から3㎞ほど離れた横湯川の上流に位置する、地獄谷荒井河原の源泉です。「地獄谷荒井河原比良の湯」と呼ばれるこの場所には、地下7mに源泉が集まるトンネルがあり、中に17カ所、外に4カ所の源泉が自噴しています。
 源泉の温度はそれぞれ違っていますが、「源区」内から引湯管に流れてくる温度は、約70℃。
温泉成分が非常に濃いため、放置しておくと成分が泥状の沈殿物となって引湯管の内壁に張りついてしまい、湯の流れが悪くなったり、場合によっては沈澱物でパイプが詰まって湯が流れなくなることもあります。それを防ぐため、毎年春と秋の2回、約1週間かけて皆で力を合わせ、引湯管掃除を行っています。
 引湯管は、山沿いに設置されていて、平成3(1991)年に今の引湯管に変えるまでは、しっかりとした足場もなく、非常に危険な状態で掃除が行われていました。現在は、24区画ほどに区切られたパイプ内を「ドレンクリーナー」という専用の機械を使って掃除をしています。ワイヤーの先端に矢尻のような形のハネをつけてパイプの中に送り込むと、ハネがパイプ内で暴れて沈澱物を掻き落とします。これを1区間2往復させ、管の中をきれいにしていくのです。とにかく大変な作業ですが、大地からの恵みをいただくわけですから、皆、感謝して行っています。

源泉掛け流しの
特別な湯を体感してほしい。

 引湯管を伝って流れてきた源泉は、「分湯枡」を経由して、温泉宿や外湯、一般家庭へと引かれていきます。開湯1300年の歴史の中で、渋温泉全体で守ってきた大切な源泉ですから、掃除も旅館組合の役員だけでなく、一般住民や商店など、湯の権利を持つ全員が参加して行われています。引湯管の掃除以外にも、年1回の「源区」内の掃除や、毎年秋に行われる「旧管」の掃除など、温泉を守るために年間を通して、さまざまな作業があります。当地では昔から、「御手馬」といって地域住民が力を合わせて地域の共同作業を行ってきました。時代は変わっても、自分たちの地域、自分たちの湯は、自分たちで守る姿勢を忘れないようにしたいと思っています。
 こうして各所にある源泉から湯が引かれる渋温泉の旅館や外湯は、すべて源泉掛け流し温泉です。源泉掛け流しとは、源泉から引湯した温泉に加水や加温をすることなく、浴槽に注ぐことをいいます。だからこそ渋温泉のお湯は、温泉成分がしっかりと感じられるのです。ちなみに、渋温泉では温泉を沸かすための光熱費は必要ありませんが、最近では外湯を巡るお客様が、熱い湯に慣れずに水で薄める水道代が馬鹿にならないとか。そんな話題も、渋温泉ならではだと思います。
 渋温泉は、昔から湯治場として、草津街道の宿場町として、また昨今は海外の方も合わせ、今日まで多くのお客様をお迎えしてきました。地元では9つある外湯も楽しんでいただきたいと、宿泊者の方限定で「九湯めぐり」もご案内しています。また、ご宿泊以外の方でも九番湯である「大湯」は有料でご利用いただけます。これからも渋温泉の地を、そして大地からの恵みである湯を守り続け、お客様に渋温泉を楽しんでいただきたいと思います。

(2025年9月号掲載)