さまざまな事情から
孤立してしまった人たちを
一人でも多く
社会へ、未来へつなげていく
2015年の国連サミットで「SDGs」が採択され、2030年までに達成すべき世界共通の目標が示されてから、今年で10年。私たちは、持続可能な社会へと舵を切れているのでしょうか。
このシリーズでは、さまざまな課題解決のために、長野の企業や団体がどんな取り組みを始めているのかをご紹介します。今回は、NPO法人えんまるの岩間千佳さん、淳さんにお話を伺いました。
自分から動くことで
伝えたいのは心のつながり。
もともとは保育士なんです。子どもたちと過ごす中で、子どもが病気になっても預けられる人や場所がなくて困っているお母さんたちの多さに、「自分ができることで」とNPO法人を立ち上げ、仲間とともに訪問型の病児保育を始めました。
その後、世界中がコロナ禍に突入する中で、ひとり親家庭がどんどん困窮して孤立していく状況を目の当たりにし、「今、動かなければ」と、2020年8月に「こども宅食えんまる便」をスタート。毎月1回、困窮するご家庭に食材をお届けしながら、地域から孤立してしまっているお母さんや子どもたちに声をかけ、話を聞き、信頼関係を築きながら社会とつなぐことを目指し活動しています。
困窮するひとり親家庭の中には、行政のセーフティーネットに辿り着けない人や埋もれてしまっている人、心を閉ざすことで子どもを守ろうとする人など、さまざまな人がいます。利用者さんが、「頼ってもいいんだ」「助けてもらうのは悪いことじゃないんだ」と、心を開いて相談してくれるようになるまで、じっくりと支援を続けています。
「こども宅食えんまる便」は、長野市内にお住まいの児童扶養手当受給家庭であれば、どなたでもご利用いただけます。24時間いつでもスマートフォンから申し込みが可能で、月に1回、さまざまな支援で集まった食材をお届けしています。今、大変な思いをしている方がいらっしゃったら、一度声を掛けていただければと思います。
誰もが気軽に楽しく
幸せになる循環を生み出す。
「こども宅食えんまる便」が届ける食材は、企業や一般の方からの寄付、県で取りまとめている支援や助成金などで賄われています。ただ、このシステムはいつでも充分な量が確保できるわけではなく、課題も多くあります。
そんな中、もっと多くの人が気軽に参加することで、だれもが嬉しい持続可能な支援の「仕組み」を作れないかと考えたのが、「えんまるシェ」です。これは、NPO法人えんまるが、消費期限が近くなった商品やパッケージミス等で通常の流通に乗せられなくなった商品を企業から安価で仕入れ、賛同するお店や企業に商品を設置して、一般の方に買っていただくというもの。商品売上の利益は、困窮する家庭のほか、若者や学生の支援等にも活用しています。
企業にとって「えんまるシェ」は、廃棄するしかない商品を販売することができ、フードロスの削減や廃棄コストの削減にもつながります。商品を置いてくださるお店は、お客様へのサービス向上や社会貢献への参加に。商品を買ってくださる地域の方は、お得に美味しい商品を楽しむことで、それが巡って誰かの支援につながっていきます。寄付やボランティア活動はハードルが高い人でも、お得に商品を買うことが支援につながるのであれば、気軽に参加できるはずです。みんながそれぞれ嬉しくて、美味しくて、笑顔の輪がつながる。「えんまるシェ」は、そんな素敵な仕組みだと思っています。昨年の秋からスタートさせ、現在、多くの企業やお店の方から賛同や問い合わせをいただいています。
活動を続けて約5年。「苦しい時に助けてもらったから、今度は自分が助けたい」と、支援の仲間に加わってくれた人もいます。これからも、一人でも多くの方とつながり、誰もが笑顔になれる幸せな未来を描いていきたいと思います。。
(2025年9月号掲載)