生まれ育った中野市から
新しい「食」の提案とともに
美味しいフルーツを
全国へ発信していきたい。
2015年の国連サミットで「SDGs」が採択され、2030年までに達成すべき世界共通の目標が示されてから、今年で10年。私たちは、持続可能な社会へと舵を切れているのでしょうか。
このシリーズでは、さまざまな課題解決のために、長野の企業や団体がどんな取り組みを始めているのかをご紹介します。今回は中野市でぶどうの栽培を手掛けながら新たな農業の在り方を模索し、新しい事業を展開する株式会社農業開発の代表、阿部貴典さんにお話を伺いました。
農業に取り組む中で
見えてきた課題。
中野市で農業を続けて8代目。昔からずっとこの地で、作物を作り続けてきました。昔はいろいろと手掛けていたようですが、父の代からぶどうを始め、高度経済成長とも重なって当時は非常に景気がよかったようです。ただ、私が農業を継ぐ頃は日本全体が不景気で、本当に苦労しましたね。ブライダル需要のある切り花に目をつけて栽培を始めるなど、農業で生きていくためにさまざまなことに挑戦しました。その後、シャインマスカットやナガノパープルなど新品種のぶどう栽培が始まり、市場が拡大。経営も盛り返したことでぶどう栽培1本に切り替え、現在では7haほどの圃場でぶどうを栽培しています。
ぶどう栽培を本格的に始めると同時に課題となったのが、規格外品の扱いでした。ぶどうは粒が揃っているだけでなく、房の大きさや形の美しさが求められます。一粒の美味しさは変わらないのに、房の形がよくないというだけで、生鮮の市場では価格が落ちてしまうんです。同じように手間を掛けて育てたぶどうをもっと大切にしたい、この美味しさを別の方法で届けることはできないかと考え、たどり着いたのが「冷凍フルーツ」でした。当時はまだ果物を冷凍して販売するという発想が地域にほとんどない中で、2015(平成27)年に会社を設立。まずは自社農園のぶどうを冷凍、販売するところから始め、今では北信地域を中心に、全国のフルーツを取り扱うまでになりました。
「食」と「農」の
新しい価値を創造する。
2022(令和4)年に新たに加工工場を建設。食品安全規格「JFS-B規格」を取得し、お客様に安心・安全な冷凍フルーツをお届けできる体制も整いました。もっとも美味しい旬のフルーツを食べやすい大きさに丁寧に加工して急速冷凍し、さまざまな需要にお応えしています。生のフルーツの香りや栄養を損なうことなく、いつでも好きな時に好きな量を楽しむことができる冷凍フルーツの需要は、どんどん高まっていると感じます。なにより私たち自身が農業を営む者として、美味しいフルーツをもっと多くの方に楽しんでいただきたいと願っています。ぜひ一度、冷凍フルーツの美味しさを味わっていただきたいと思います。
また、今年からバイオマス農業にも着手し始めました。シャインマスカット等のハウス栽培は、冬の時期から圃場を温めることで発芽を促し、収穫時期を早めます。その際に使われる燃料を、「オギススキ」という植物を原料にしたペレット(固形燃料)にすることで、カーボンニュートラルに取り組んでいきたいと思っています。現在はまだ研究・テスト段階ですが、実現すれば自分たちが育てたオギススキを使って自ら燃料を作り、それを活用して圃場を温めてぶどうを栽培することが可能になります。オギススキは燃料を作る際にネックとなる「乾燥」が必要ないことから、農家が燃料として取り入れやすいと考えています。オギススキによるバイオマス農業によって、燃料を作る、使う、栽培するというサイクルが、自分たちの営みの中で実現できることに期待を寄せています。
これからも、私たち農業者が、「食」と「農」の新しい価値を創造することで、地域の農業を活性化するとともに、フルーツのある豊かな暮らしをお届けしたいと思います。