
多品種りんごの里
飯綱町だからこそできる
地産地消のシードルを通して
新しい提案を発信していきたい
2015年の国連サミットで「SDGs」が採択され、2030年までに達成すべき世界共通の目標が示されてから、今年で10年。私たちは、持続可能な社会へと舵を切れているのでしょうか。
このシリーズでは、さまざまな課題解決のために、長野の企業や団体がどんな取り組みを始めているのかをご紹介します。今回は、北信五岳シードルリー株式会社代表取締役CEOとして、飯綱町で地産地消のシードル造りに取り組む小野司さんにお話を伺いました。
多品種りんごの里 飯綱町の
りんご農家に生まれ育って。
飯綱町のりんご農家、「一里山農園」の4代目として生まれ育ちました。「いつかは農園を継ぐ」という気持ちはありましたが、一度は別の世界を見ておこうと20代の頃はシステムエンジニアとして名古屋や東京へ。刺激的な日々でしたが、システムは正確に動いて当たり前の世界なので、実際に利用する人の反応がなかなか伝わってこないんです。年末などで家に帰ったときに、父がお客様から「美味しいりんごだったよ」と電話や手紙をいただいて喜んでいる姿を見て、自分ももっとダイレクトにお客様と関わり、喜んでいただける仕事がしたいと強く思うようになりました。中小企業診断士の資格を取ったのもこの頃です。農家を継ぐのであれば綿密な事業計画を考えた上で、飯綱町の地域活性化にもつながるような農園経営をしたいと、自分なりに試行錯誤していました。
そんな中で目をつけたのがシードルです。以前から委託でシードルを造って販売はしていたのですが、食の多様化やシードルの認知度の高まり、需要の拡大などを受け、自分たちでシードルを造ろうと決めました。同じ志を持った3農家で、平成29(2017)年12月に北信五岳シードルリー株式会社を設立。平成31(2019)年5月に初めてのシードルが完成しました。「ふじ」と「グラニースミス」の2品種のりんごをブレンドして酵母違いで造ったシードルは、どちらも非常に美味しく仕上がり、ほっとしたのと同時に自信につながりました。
りんごを余すところなく
活かす新たな提案を。
現在、林檎学校醸造所では20品種ほどのりんごを使って、約20種類のシードルを造っています。飯綱町はりんごの多品種栽培に積極的に取り組んでおり、今年も50品種以上のりんごが町内で栽培されました。地産地消でこれだけの品種のりんごを揃えられるところは、日本全国探しても他にないと思います。林檎学校醸造所のシードルが他社と差別化できるのも、多品種りんごの里、飯綱町だからできることだと思います。
使用するりんごは、飯綱町のりんご農家の規格外品やサイズが小さいものを中心に使用しています。果汁を絞った後のりんごは残渣と呼ばれ、多くは廃棄されてきましたが、林檎学校醸造所ではこの残渣を活用しようと飼料企業と連携。りんごで育った信州牛の飼料として活用いただいています。
また、株式会社SORENAさんからお話をいただき、りんごの残渣を活用した人工皮革「りんごレザレット」にも参画。りんごがレザーにアップサイクルできるなんて知らなかったので驚きましたが、とても素晴らしいことだと思います。さらに自分も含めてスタッフに犬好きが多かったことから実現したのが、「わんこのおやつ 信州りんご味」です。芯などを取り除いて絞った後の残渣を活かして作ったもので、可愛らしい骨の形に仕上がっており、我が家の愛犬にも好評です。
この他にも、キャンドル作家さんに残渣を活用した犬が齧っても大丈夫な「肉球キャンドル」を作ってもらったりと、林檎学校醸造所を起点に世界がどんどん広がっています。これからも、面白いな、それって素敵だなと思うことにスピーディーに挑戦し、自分たち自身が楽しみながら、飯綱町のりんごを余すところなく活用していきたいと思います。



(2026年1月号掲載)