• 誰のものでもない
    自分だけの視点を研ぎ澄ませ
    地域の歴史を
    もっと楽しんでほしい。

      • 長野県立歴史館
        学芸部 総合情報課
        文化財指導主事

        中山 敦

        Atsushi Nakayama

      • 長野県立歴史館
      • 千曲市大字屋代260-6
      • 026-274-3991
      • https://www.npmh.net/

教師になって初めて
見えてきたこと。

 生まれも育ちも長野県。小さい頃から賑やかで楽しいことが大好きで、学校ではいつも率先してクラスを盛り上げるタイプでした。ありがたいことに小・中・高と、素晴らしい先生方に見守られ、また母親が教師だったこともあって、自然と教師を目指すようになりました。
 念願叶って中学校の社会科教師となりました。いくつかの学校で教えるようになって気づいたことは、自分たちが暮らす地域のことよりも、教科書の学習事項に関心が寄せられてしまう生徒が多いということです。町のお祭りや行事に参加する機会も減り、地域の神社に祀られている神様もよくわからない。家と学校と部活が中心の生活で、そこに「地域」が関わる余地が少ない。これは現代の学校、地域が抱える課題かもしれません。
もっと自分が暮らす地域に興味や関心を持ってほしい。地域に愛着を持つことで、たとえ進学で県外に出たとしても、いつか地元に戻ってきたいと思う子どもたちが増えてほしい。そんな「想い」が強くなり、授業の中で地域の歴史や資料を見る機会をつくり、生徒たちが少しでも地域に興味を持てるよう、工夫するようになっていきました。
 そんな「想い」があったからかはわかりませんが、長野県の歴史についてもう一度しっかりと学ぶ機会をいただき、長野県立歴史館に2年前から勤務しています。現在、私のほかに全県から11名の教員がおり、長野県立歴史館での経験を、いずれは学校教育に活かせるよう研鑽を積んでいます。

自分の視点で楽しむ
その「種」を植えていきたい。

 長野県立歴史館には、年間で約200団体、1万人を超える子どもたちが長野県の歴史を学びに訪れています。文化財指導主事として小学生の移動教室の案内をしていますが、その際に気を付けていることは、説明しすぎないということ。説明が多くなればなるほど、子どもたちは受け身になってしまい、目の前にある資料を説明された角度からしか見ることができなくなってしまうのです。それよりも、自分の視点で本物の資料をじっくり見て、触って、体感してほしい。「さあ、いろいろ見てごらん」と言うと、子どもたちは目をキラキラさせて散っていきます。耳をすませば、それぞれに自分の感性で資料を見て想像力を膨らませ、子どもたち同士で自分の考えを言い合い、その違いを楽しむ声が聞こえてきます。それこそが本当の学びで、私たちはそのきっかけ、好奇心の「種」を植えることに注力すべきだと思っています。自らの力で学び始める姿は本当に輝いています。
 この視点は、大人にも言えることです。地域の歴史を自分の視点で捉え、楽しむことで世界は広がります。ぜひ一度、歴史館に足をお運びください。この夏は常設展に加え、7月11日(土)から8月23日(日)まで、令和8年度夏季企画展として「戸隠の至宝〜守り継がれた信仰と由緒〜」を開催しています。戸隠は平安時代より修験者の霊場として栄え、奥院、中院、宝光院の三院からなる顕光寺の時代、明治初期の神仏分離令を経て戸隠神社に改まった時代と、現代に至るまで非常に深い歴史を持つ地です。企画展では、あまり表に出ることのない資料を数多く展示していますので、今まで知らなかった戸隠の歴史を楽しめると思います。期間中には講演会やギャラリートークなども予定しています。多くの方のご協力を得て実現した宝物の中に、好奇心をくすぐる「種」がきっと見つかるはずです。夏休み期間中でもありますので、ぜひご家族でご来館ください。

(2026年8月号掲載)