• 「一目十万本」といわれる、あんずの里。
    生まれ育ったこの故郷を
    変わることなく次世代へと繋ぐために、
    できることをひとつずつ。

      • あんずの里のあんずショップ
        株式会社横島物産

        商品開発コーディネーター横嶋 孝子

        Takako Yokoshima

      • 株式会社横島物産
      • 千曲市森1401-6
      • 026-273-1311
      • http://yokoshimabussan.com/

杏のある暮らしが
あたりまえだった日々を超えて。

 生まれも育ちもここ、千曲市の森地区です。生まれた時から杏があるのは当たり前で、森地区の人間にとって杏はとても身近な存在でした。小さい頃から1年に一度のお花見が待ち遠しくて。小学生の頃には家の商売を手伝って杏ジャムを売っていた記憶があるのですが、たくさんの観光客の方たちとふれあったり、お天神さんに行ったりと、薄紅色の花が咲き誇る杏の畑の中を駆け回っていましたね。普段、人がいない町が賑やかになるのが本当に楽しくて仕方ありませんでした。
 就職、結婚で地元を離れ、県外に出たこともありますが、それでも必ず花の時期、実の時期には戻って来ていました。当時よくお土産に生の杏を持ち帰っていたのですが、それが本当に喜ばれて。県外に出て初めて、あまりにも近すぎて見えていなかった、杏の可能性を感じることができました。
 丁度その頃、父が生あんずとして出荷できないものを加工して地域の活性化に繋げられないかと、杏ビールを発案したんです。私はネーミングとラベルデザインを担当させてもらったのですが、自分の考えたものが商品となって人に喜んでもらえる喜びを初めて経験して、私にも何かできるのではないかと、それから本格的に商品開発を始めました。

あんずの里を
これからもずっと守るために。

 既に定番のジャムやシロップ、干し杏などは作っていたので、それをベースにさまざまな商品を開発していきました。例えば「杏紅茶」は、干し杏をベースにハーブをブレンドした無添加のフルーツ紅茶です。昔からあったものを別の形に加工することで、より幅広い年齢層の方に楽しんでいただけるお土産に変わりました。大勢の方に手に取ってもらいたいので、味はもちろんパッケージにもこだわっています。はじめは「あんずの里」を訪れた方に買って帰ってもらうことを前提に商品開発をしていたのですが、今は逆に、商品を味わってもらうことで、「あんずの里に行ってみたい」と思ってもらえるようにしたいと考えています。商品が、人を動かすこともあると思うんです。
 残念なことに今、森地区の杏の木は減少傾向にあります。高齢化が進み後継者がいない中、杏の木を維持することが難しくなってきているのです。行政も頑張っていただいているのですが、なかなか厳しい問題です。
  そんな中、住んでいる私たちができることをやろうと、3年前に花さかフェスタ実行委員会を立ち上げ、花の時期に合わせて「花さかフェスタ」を開催しています。まずは住んでいる人や地元の子どもたちが楽しめること。そんな中で子どもたちが、「おじいちゃんの杏の木を切らずに守っていこう」と思えるようになってほしい。ゆっくりでも、意識改革に繋がっていってほしいと思っています。そしていつか、「あんずの里」を昔のような素晴らしい景観に戻していきたいのです。
 フェスタでは、地元の友人や企業、ボランティア団体さんなど、大勢の方が協力してくださっています。私一人ではできないことも、「あんずの里」を愛する多くの方の力があれば守ることができると信じて、これからも「あんずの里」の未来のために、できることをひとつずつやっていきたいと思っています。

(2017年8月号掲載)