• 美味しいぶどうの
    その本物の味を
    多くの人に
    知ってもらいたい。

嫌いだったはずの農業に
いつのまにか魅了されて。

 曾祖父の代から須坂で農業を営む家で生まれ育った自分にとって、農業はとても身近なものでした。小さい頃は父や母が農作業をしている傍らで遊ぶことも多く、作業を手伝うことも当たり前でしたね。ただ、成長するにしたがって友だちの家と自分の家の違いが分かるようになってきて。土日も休みがなく旅行や遊びに連れていってもらえないこともあって、だんだんと農業が嫌いになってしまったんです。そんな状態ですから家を継ぐ気もまったくなく、大学に進学した後は、長野には戻りましたが金融機関に就職して会社員になりました。
 ある意味、憧れていた企業人としてのスタートを切ったわけですが、組織に入って働くことで、逆に「農業」という仕事を今までとは違った視点で見るようになりました。個々がそれぞれの役割を果たすことで成り立つ組織での仕事も充実していましたが、父の、すべて自分の力で「もの」作りをする姿や在り方にも共感できるようになったんです。そのうちに「自分だったらどうやっていくか」という観点から主に販売促進の部分を手伝うようになり、手伝えば手伝うほどぶどう農家としてやってみたいことが溢れ出てきて、もっと真剣に取り組みたいと思うようになりました。将来のことなどいろいろ考えたのですが、今年の3月に退路を断つつもりで会社を辞め、ぶどう農家としてやっていく覚悟を決めました。

美味しいぶどうを
もっと多くの人に届けたい。

 大正時代から農業を始めた岡木農園ですが、完全にぶどうにシフトしたのは父の代からです。人気の高いシャインマスカットは、試験農園として須坂の中でも早くから栽培していました。今、岡木農園のぶどうが美味しいのは、すべて父の努力の結晶です。これからその技術を学び、さらに美味しいぶどうを極めたいと思っています。
 うちは自分たちが作ったものに責任を持ちたいので、直売にも取り組んでいます。本来お金を払ってからじゃないと答え合わせができないぶどうの味を、食べる前から「美味しいぶどう」と言っていただけるのは、岡木農園の作るぶどうに信頼を寄せていただいているからですし、その期待を裏切らない農業を続けていきたいと思っています。
 また、ぶどう農家になって改めて感じたのが、「本当に美味しいぶどうを知らない」人がまだまだたくさんいるということ。そういう人たちに、もっと気軽にぶどうを食べてもらえる機会を作れないだろうかと妻に話したところ、銀座にできた「無印良品」の旗艦店で生鮮食品を扱うらしいと、妻が先方へメールを送ったんです。そうしたら先方から連絡が来て。今シーズン、東京の無印良品銀座店では、岡木農園のシャインマスカットが10数粒300円ほどで販売しています。とても好評で一日に200カップ以上売れる日もあったとか。シャインマスカットを食べたことのない人も多く、ぶどう本来の美味しさを届けることができたと嬉しく思っています。
 この他にも、農園のプロモーションビデオの制作やシャインマスカットを使った低アレルゲンのスイーツプロジェクトを立ち上げ、学生さんや保育園関係者、旬彩菓たむらさんのご協力を得て、牛乳や小麦などの特定原材料7品目を使わないスイーツを企画、販売するなど、農家の枠にとらわれない新たな取り組みも始めています。これからも岡木農園の4代目として、柔軟な発想でさらに挑戦を続けていくつもりです。

(2019年12月号掲載)