• 住職であり桃農家でもある。
    地域に生きる一員として
    自分にできることを
    成していきたい。

      • 圓成寺 住職

        小菅 宗真

        Soushin Kosuge


      • 臨済宗妙心寺派 月輪山 圓成寺
      • 長野市川中島町今里682
      • 026-284-4405

仏教という未知なる世界へ
人の縁に導かれて。

 東京生まれの東京育ちで、お寺といえばお盆のお墓参りくらい。山口県のサファリランドで動物の飼育員をしていた自分が、まさかお寺の住職になるとは夢にも思っていませんでした。その“まさか”の縁がつながったのが、当時結婚を前提に付き合っていた女性です。圓成寺の住職の孫であった彼女から「住職を継いでくれないかという話があって」と相談されたのがすべての始まりでした。その時に強く感じたのが、仏教という未知なる世界への関心。そうして縁に導かれるままに、新たな世界へと飛び込んだんです。
 決めてからはあっという間で、結婚後すぐに修行へ赴き、2年間の修行を経て圓成寺の副住職となりました。その後は住職に付いて経験を重ねながら、更なる修行の一環として佐久の安養寺でも学ばせていただきました。そんな日々の中で、「自分はどんな住職で在りたいか」という、目指すべき姿を思い描くことができたように思います。
 多くの方は、お寺といえば仏事の時だけ行くもので、住職は偉い人、近寄りがたい人という印象を持っているかと思います。でも、自分はそうはなりたくなかった。住職だけれど地域の一員であって、その一員として地域の役に立てるような、そんな住職でありたい。住職として地域全体が豊かになるお手伝いをしたいと思うようになりました。

住職として、桃農家として
地域の身近な存在でありたい。

 ちょうどその頃、川中島地域が全国区のブランドとして作り上げてきた川中島白桃の担い手が、少なくなってきているという話を耳にしたんです。それで、自分にできることはないだろうかと考えた時に、「そうだ、桃農家になろう」と思い立ちました。もちろん農業の経験はまったくありません。それでも先代が持っていた畑を継ぎ、家族の協力を得て、さらに地域の皆さんに教えていただきながら、一つひとつ桃農家としての知識を身に付けていきました。檀家さんも桃農家の方が多く、皆さん、住職が桃農家を始めたけれどあぶなっかしくて見ていられないと感じたのか、よく声を掛けてくださって。慣れない中で失敗したり奮闘したりする姿を見せていく中で、地域の皆さんとつながり、住職としても認めてもらえるようになったと思います。
 地域とのつながりは徐々に広がり、公民館や川中島町住民自治協議会の方ともご縁をいただくようになりました。ある時、桃を使ったお菓子を作れないかという話になって、そういえば以前、「旬彩菓たむら」さんから桃のお菓子を作るための試作用の桃を譲ってほしいと言われたことがあったなと思い出し、たむらさんに連絡してみたんです。そうしたら真剣に取り組んでくださって、この春、川中島白桃を使ったお菓子が出来上がりました。川中島白桃をもっと多くの方に味わっていただきたいという桃農家の思いがお菓子の中にぎゅっと詰まっているようで、本当に嬉しく、ありがたく思っています。
 実は今年の桃の花の時期に、地域の皆さんと桃の花を楽しむイベントを開催する予定だったんです。新型コロナウイルスの影響で残念ながら中止となってしまいましたが、美味しいお菓子も作っていただけましたし、ぜひ来年もう一度企画し、開催したいと思っています。
 お寺も、川中島白桃も、後世に伝えていくことは本当に大変で難しいことです。だからこそ、圓成寺の住職として、桃農家として、常に自分ができることを考えていきたい。それが地域の皆さんに愛される、桃畑に囲まれたお寺を守ることにつながっていくと信じています。

(2020年8月号掲載)