心豊かな地
戸隠の素晴らしさを
宿屋の営みを通して
伝え続けていきたい。

塚田 真紀
Maki Tsukada
白金家は、昭和11年に曾祖父が建てた宿屋です。それまで宿坊以外に宿泊施設がなかった戸隠に初めて宿屋を開業し、第二次世界大戦や高度経済成長といった時代の変遷とともに、2代目、3代目とその姿を変えながら受け継がれてきました。
さまざまな手続きを経て始まった白金家の工事ですが、これがとにかく大変でした。保存地区の建物を復元するということは、釘ひとつ打つにしても長野市を通して文化庁にお伺いをたてないといけないんです。結局、復元工事に2年の月日を費やすことになりましたが、隠れていた栗やケヤキの柱や梁が現れるたびに、曾祖父がどんな思いでこの建物を建てたのか、その心に触れているようで嬉しかったですね。愛着がどんどん湧いてきて、この宿を私の代で途切れさせてはいけないという思いが、自分の中で育っていくのを感じました。そうして復元が終わった白金家を見上げたとき、「この歴史ある建物を多くの人に見ていただきたい、曾祖父の思いを受け継ぎたい」と素直に思えたことが最後の決め手となり、4代目女将として宿屋を始めることにしました。(2021年4月号掲載)